「ゴールデンエイジ」に根拠はある?運動神経の発達について調べました

ゴールデンエイジに根拠はある?運動神経の発達について調べました

息子が、家の中をずーっと走っています。キッチンのまわりをぐるぐる回れる間取りなのですが、朝起きてすぐも、夕飯の前も、寝る前も、ずっとぐるぐる。楽しそうなのでいいんですけど、ふと「これ、大丈夫なのかな」と思うことがあります。あと最近、庭の人工芝ででんぐり返しを覚えてしまって、首は大丈夫かなーと、見ていて少しひやっとしたり。

習い事についても、考えてみたり、まぁいっかって思ったり、の繰り返しです。リトミックとかスイミングとか、周りで名前を聞くたびに少し気になって、でもそのまま日常に戻る。そんなどっちつかずの状態で、たまたま目に入ったのが「ゴールデンエイジ」という言葉でした。「運動神経は12歳までに決まる」「神経は5歳で80%できあがるから、今やらないと手遅れ」という、あの話です。

聞いたことはありました。でも、その根拠がどこにあるのかは知らなかった。だから調べてみたんですね。そうしたら、思っていたのとだいぶ違う景色が出てきました。あの曲線が何のグラフだったのか、そして家の中を走り回っている子は、運動が足りていないどころか、目安の上ではしっかり足りているらしいということ。順番に書いていきます。

目次

そもそも「運動神経」って、何のこと?

最初に、言葉を少しだけそろえておきます。というのも「運動神経」って、日常でよく使うわりに、かなりふわっとした言葉なんですよね。

ふだん私たちが「運動神経がいい」と言うときは、走るのが速い、ボールをうまく扱える、新しい動きをすぐ覚える、あたりをまとめて指していると思います。体のしくみとしての神経そのものの話ではなくて、「体をうまく動かす力」全般のあだ名みたいなものです。

いっぽう、今回読んだ資料の側は、この言葉を使いません。出てくるのは「基本的な動き(走る・跳ぶ・投げるといった動作のこと)」「動きを覚える力」「体を動かしている量」など、それぞれ別々の言葉です。ここをまとめて「運動神経」と呼んでしまうと、「12歳までに決まる」と言われているのが何の話なのか、途中で見失います。

なのでこの記事では、「運動神経」は「体をうまく動かす力」のゆるい総称として使い、資料の中身に触れるときは、それが「動きを覚える力」の話なのか「動く量」の話なのかを、そのつど書き分けるようにします。

よく見る「あの曲線」の正体

「12歳までに決まる」の根拠として、ほぼ必ず出てくる図があります。横軸が年齢、縦軸が100%、そして「神経型」と書かれた線が、小さいうちに一気に立ち上がって、あとは頭打ちになるグラフ。見たことがある方、多いと思います。

あれは「スキャモンの発育曲線」と呼ばれるものです。スキャモンという研究者が1930年の『The Measurement of Man』で示したもので、体の発育を4つのパターンに分けて描いたうちのひとつが「神経型」です。

この神経型が「出生直後から急激に発育し、4、5歳までには成人の80%程度(6歳で90%)にも達する」とされていて、ここから「神経は5歳でほぼ完成」「だから運動は早く」という話につながっていきました。

この曲線について、日本語で読める査読つきの総説があります。愛知工業大学大学院の藤井勝紀さんが2013年に『スポーツ健康科学研究』に書いた「発育発達とScammonの発育曲線」という論文で、今回いちばん助けられた資料です。ここから2つ、それまで知らなかったことが出てきました。

挿絵1|ダイニングテーブルでタブレットを見ながら考えごとをしているママ(茶髪ロング)。足元で息子(黒髪短髪)が走り抜けて

あれは「能力」ではなく「サイズ」のグラフだった

ひとつめ。あの曲線の縦軸は、「運動を覚える能力がどのくらいか」ではありません。

藤井さんは高石さんという研究者の指摘を引いて、4つの曲線が示しているのは「成熟までの増加量を100とした後の増加量の大きさ」であり、「すべての曲線が出生時0、20歳時100に到達している点が最も大事」だと書いています。

かみくだくと、こういうことです。神経型の曲線の「80%」は、脳や脊髄、頭の部分が、大人の大きさの80%まで育ったという意味。大人を100としたとき、どこまで来たか、という相対値なんですね。

「神経系の大きさが5歳で大人の8割」と、「運動を覚える力が5歳で大人の8割」は、ぜんぜん違う話です。でも、あの図が一人歩きするうちに、いつのまにかサイズの話が能力の話に読み替えられて、「だから12歳までに神経が完成する」「今やらないと手遅れ」という形になっていった。私はそう理解しました。

ここ、誰かが嘘をついたわけではないと思うんです。図そのものは本当にあって、数字も本当にそう書いてある。ただ、縦軸の意味が途中で入れ替わっただけでした。

しかも、この曲線は「検証されていない」

ふたつめ。こちらのほうが、びっくりしました。

藤井さんの論文には、この曲線がどう作られたかについて、こう書かれています。

「Scammonが提唱した4つの発育パターンを一種のモデルパターンと考え、創作によったアイデアをフリーハンドによってグラフ化したものである。」

フリーハンド。つまり、たくさんの子どもを測って点を打って線を引いたのではなく、著者が「こういう形になるはず」というアイデアを手描きでグラフにしたものだった、ということです。

さらに続けて、こうも書かれています。

「Scammonが描いた発育曲線はあくまでもある一定の事実による推定から導かれた仮説のモデル曲線であり、科学的な検証は成されていないといえよう。」

「実は、現在までScammonの発育曲線は科学的な検証はなされていないのである。(中略)発育曲線の類似性や相違性を客観的に評価する手法が確立されていないのである。」

1930年に提唱されてから、およそ80年。この曲線はいろいろな分野で使われ続けてきたのに、「本当にそういう形なのか」を確かめた研究がない、というのが藤井さんの指摘です。

ここで大事なのは、「だからスキャモン曲線は間違い」ではないということ。「間違いだと分かった」のではなく、「合っているかどうか、そもそも確かめられていない」。この2つは似ているようで、ぜんぜん違います。実際、藤井さん自身はこの曲線を捨てたわけではなくて、ウェーブレット補間法という手法で描き直し、神経型・リンパ型・一般型の3つにまとめた「Fujimmonモデル」を提案しています。曲線の考え方には価値があるけれど、よく引用されるあの図をそのまま「証明済みの事実」として扱うのは無理がある。そういう温度感だと受け取りました。

英語の論文では、「黄金期」という言葉をほぼ見かけない

ここまでで「根拠の図」の話は終わりです。次に気になったのは、「ゴールデンエイジ」という言葉そのものが、研究の世界でどう扱われているのか、でした。

ソルムさんたちが2020年に『Frontiers in Psychology』に出した論文に、こんな一文があります。

“Despite being widely used within the more practical domains, such terms as a golden age are rarely found in the scientific literature.”
(現場ではよく使われているものの、「黄金期」のような用語は、科学文献にはほとんど見られない)

日本だけの言葉なのかな、と最初は思ったのですが、どうもそうでもなくて、ドイツ語圏の運動学に「goldenes Lernalter」という言い方があり、日本語の「ゴールデンエイジ」はそこから来ている可能性があるようです。ただ、出どころがどこであれ、その言葉を使って検証した研究がほとんどない、というのが実情のようです。

ちなみに、日本スポーツ協会が出している「アクティブ・チャイルド・プログラム」や「日本版アスリート育成モデル」の資料も読んでみたのですが、「ゴールデンエイジ」という言葉は一度も出てきませんでした。使われているのは「発育期」「PHV年齢」「相対年齢効果」「身体リテラシー」といった言葉です。国内のスポーツ団体の公式資料にすら出てこない、というのは、少し意外でした。

10歳・18歳・39歳にダーツを投げてもらった研究

じゃあ、子どもは本当に「動きを覚えるのが速い」のか。ソルムさんたちの研究は、そこを実際に確かめたものでした。

参加したのは27人。平均10歳の子ども9人、平均18歳が8人、34〜45歳(平均39歳)の大人10人です。全員に、利き手ではないほうの手でダーツを投げてもらいます。2日間で200投。的までの距離は、体格の差が出ないように身長に合わせて調整してあります。

結果は、3つのグループとも、ちゃんと上達しました。そして、上達した量にはグループ間で差がありませんでした(χ²(2)=2.96、p=0.23)。上達していく速さ(学習曲線の傾き)にも差なし(p=0.32)。10歳の子どもだけ、投げるたびのばらつきが大きかった(p≤0.002)という違いはあったのですが、「子どもだけが飛び抜けて上手くなる」という結果にはならなかったんです。

著者たちは、これまで「子どもの黄金期」を示したとされてきた研究について、スタート時点の技能がそろっていなかったり、体格に合わせた調整がされていなかったりしたと指摘しています。子どもが速く伸びたように見えた研究は、そもそもの条件がそろっていなかったのでは、という見方です。

ただし、これは27人の小さな研究です。これ1本で「子どもは特別じゃない」と決めることはできません。

2024年の追試では、結果が少しねじれている

もう少し新しい研究もあります。コペンハーゲン大学のベックさんたちが2024年に『Developmental Science』に出したもので、こちらは132人を4つの年齢グループ(8〜10歳、12〜14歳、16〜18歳、20〜30歳)に分けて、指の動きの課題を30分練習してもらい、24時間後にもう一度測っています。

結果は、練習中の上達は、若い大人(16〜30歳)のほうが速かった。一方で、睡眠をはさんだ24時間後には、子どもはむしろ成績が保たれたり伸びたりしていて、大人は下がっていたそうです。研究者のひとりはこの結果について、いわゆるゴールデンエイジには「実際の生理学的な根拠はない」という趣旨のコメントをしています。

これ、面白いですよね。「子どもは覚えるのが速い」は支持されなかったけれど、「子どもは一晩寝たあとの定着がいい」という、子どもに有利な面もちゃんと出ている。だから「子どもは大人より劣る」と単純に言うのも間違いです。年齢によって得意な局面が違うらしい、くらいが、いま言える範囲かなと思います。

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「〜って実際どうなの?」シリーズの第1弾です。リトミックのほうは「何と比べるかで効果量が変わる」という話で、今回の「何のグラフだったか」と同じく、元の資料まで戻ると景色が変わるという点でつながっています。

「早く始めるほど有利」も、支持されていない

「覚える速さ」の話はここまで。次は「早く始めたほうが、あとで有利になるのか」です。ここは、スポーツの団体がかなりはっきり書いていました。

日本スポーツ協会:種目を絞るのは16〜18歳

日本スポーツ協会の「発育期のスポーツ活動ガイド」(2021年)と「日本版アスリート育成モデル」では、年齢ごとの目安がこう示されています。

年齢この時期にすること(原文ママ)
3〜9歳遊びを含めた多様な運動を楽しみながら様々な動きを身につける
10〜15歳多様なスポーツを経験し、専門的なトレーニングを始める
16〜18歳得意な種目、熱中できる種目を絞り、専門的なトレーニングを深める
19歳〜得意な種目を追求し、生涯を通じて楽しむ

種目を絞るのが16〜18歳。3〜9歳は「遊びを含めた多様な運動を楽しみながら様々な動きを身につける」時期とされていて、7〜12歳の競技会については「専門的なトレーニングや競技会準備は行わない」とまで書かれています。

3〜8歳で身につけたい「技術」として挙げられているのも、「立つ、座る、歩く、走る、跳ぶ、昇る、降りる、回る、転がる、這う、よける、支える、持つ、運ぶ」。生活の中の動きです。「幼少期には楽しく遊ばせることでスポーツに必要な体のこなしが身につく」という一文が、この資料の姿勢をよく表していると思いました。あわせて、「早熟な子どものその後の伸びしろは小さくなる傾向にある」とも書かれています。小さいうちに目立つことと、あとで伸びることは、同じではないんですね。

アメリカ小児科学会:専門化は15〜16歳ごろまで待つ

アメリカ小児科学会(AAP)が2016年に出した声明でも、方向は同じです。

“delaying sport specialization for the majority of sports until after puberty (late adolescence, ~15 or 16 years of age) will minimize the risks and lead to a higher likelihood of athletic success.”
(ほとんどのスポーツで、専門化を思春期のあと(15〜16歳ごろ)まで遅らせることが、リスクを最小にし、競技での成功の可能性を高める)

さらに、「思春期前の専門化がトップ選手になるために必要だという根拠はなく、むしろ有害である可能性のほうが高い」(”specialization before puberty is more likely to be detrimental”)とも書かれています。

この声明には、数字もいくつか載っています。

  • 組織的なスポーツを13歳までにやめてしまう子=70%
  • けがのリスクが上がる練習量=週16時間超、または「1週間の練習時間(時間)が年齢(歳)を超える」
  • 休養の目安=年間で合計3か月(1か月ずつ)、週に1〜2日
  • 2015年のNFLコンバインに招かれた322人のうち、高校で複数の競技をしていた選手が87%

「10,000時間の法則」についても触れられていて、AAPは、この法則が「しばしば誤って引用されてきた」、メディアがエリクソンさんたちの研究を「誤って拡大解釈した」と書いています。研究そのものを否定しているのではなくて、「1万時間やれば誰でも」という使われ方がずれている、という指摘です。

世界トップの選手は、むしろ「始めるのが遅い」

もうひとつ、2022年にギュリッヒさんたちが『Perspectives on Psychological Science』に出した分析があります。タイトルがそのまま答えになっていて、「What Makes a Champion? Early Multidisciplinary Practice, Not Early Specialization(チャンピオンを作るのは何か?早期の専門化ではなく、早期の多種目経験)」。51の研究、6,096人(うち世界トップレベルが772人)のデータをまとめたものです。

世界レベルの選手を、国内レベルの選手と比べたところ、子どものころの多種目経験が多く、主な種目を始めたのが遅く、その種目の累積練習量が少なく、初期の伸びはむしろ遅かったそうです。「早く始めて、一途に打ち込んだ子がトップになる」というイメージとは、逆ですね。

ただし、「習い事はムダ」という話ではありません

ここまで読むと、「じゃあスイミングも体操も、小さいうちはやらないほうがいいの?」と思われるかもしれません。でも、それは違います。この記事でいちばん誤解されたくないところなので、丁寧に書きます。

研究や団体が「やめておいたほうがいい」と言っているのは、「早期専門化(early sport specialization)」という、かなり限定された状態です。アメリカのスポーツ整形外科の学会(AOSSM)が2016年に出した合意声明では、その定義を3つの条件で示しています。

早期専門化の条件(AOSSM 2016)週1回のスイミングや体操教室は?
①組織的なスポーツの集中的な練習・競技が年8か月を超えている(ほぼ通年)当てはまらない
②1種目に絞り、ほかの競技をしていない(自由な遊びが少ない)当てはまらない
③思春期前(おおむね12歳未満)当てはまる

3つが重なった状態が「早期専門化」です。週に1回スイミングに通っている、体操教室に行っている、リトミックをしている。こういうのは、①も②も当てはまりません。「ほかに何もせず、一年中、ひとつの競技だけを本気で」という状態が問題にされているのであって、幼児の習い事のほとんどは、そもそも対象外なんです。

AOSSMの声明は、”There is no evidence that young children will benefit from early sport specialization in the majority of sports.”(ほとんどのスポーツで、幼い子どもが早期専門化から利益を得るという根拠はない)と言うと同時に、”Early multisport participation will not deter young athletes from long-term competitive athletic success.”(早いうちにいろいろなスポーツをすることが、将来の競技での成功をさまたげることはない)とも書いています。

つまり、「早くからひとつに絞る」を推していないだけで、「早くから体を動かす」はまったく否定していない。むしろ、いろいろやるのはいいよ、と言っている。習い事に通わせている方は、ここで安心してもらって大丈夫です。

日本スポーツ協会も、活動量の目安として「週3回以内・1回1〜2時間」を挙げています。週1回の教室なら、この枠にすっぽり収まります。

例外もあります:体操・フィギュア・新体操・飛込

ひとつ、隠さずに書いておきたいことがあります。AAPの声明には、こういう一文もあるんです。

“Figure skating, gymnastics, rhythmic gymnastics, and diving may require early specialization, because peak performance occurs before full physical maturation.”
(フィギュアスケート、体操、新体操、飛込は、体が成熟しきる前に競技力のピークが来るため、早期専門化が必要な場合がある)

この4つは、競技のピークが早いので、「遅く始めればいい」が当てはまらない可能性があります。ただ、同じ声明はその直後に、「そうした競技で求められるトレーニングが、選手の長期的な健康にリスクをもたらすかどうかは分かっていない」とも書いています。

なので、たとえば体操を本格的にやらせたいというご家庭は、この記事の「急がなくていい」を、そのまま当てはめないでください。そこは別の判断が必要な領域です。それでも、「分かっていない」ときちんと書いている資料のほうを、私は信頼したいなと思いました。

では、0〜3歳で何をすればいいのか

ここからは、「じゃあ結局うちの子はどうすれば」の話です。まず、少し困った事実から。

日本には、0〜2歳向けの公的な運動指針がありません

文部科学省が「幼児期運動指針」というものを出しているのですが、これは「3歳から6歳の小学校就学前の子ども」が対象です。0〜2歳は対象に入っていません。そして、私が探した範囲では、日本の公的機関が0〜2歳向けに出している運動の目安は見つけられませんでした。無いものは無いので、そのまま書いておきます。

なので、この年齢帯については、WHO(世界保健機関)が2019年に出した「5歳未満の身体活動・座位行動・睡眠のガイドライン」を見るしかありませんでした。

WHOの目安(強い推奨、ただし根拠の質は低い)

先に、このガイドラインの読み方をひとつ。WHOはこれらの項目すべてに“strong recommendation, very low quality evidence”(強い推奨、ただしエビデンスの質はとても低い)という但し書きをつけています。「みんなにこうしてほしい」という推奨の強さと、「それを裏づけるデータの確かさ」は別もので、後者はまだ弱い、ということです。目安として頼りつつ、絶対の数字ではない、くらいの距離感で読むのがよさそうです。

年齢体を動かす目安画面(スクリーンタイム)睡眠
1歳未満1日に何度も、いろいろな方法で体を動かす。特に床の上でのやりとりのある遊び。うつぶせ(tummy time)は起きている間に合計30分以上。ベビーカーやハイチェアなどに1時間を超えて座らせっぱなしにしない推奨しない14〜17時間(0〜3か月)
12〜16時間(4〜11か月)
1〜2歳強度を問わず、1日合計180分(中〜高強度の活動を含む)。1日を通して1歳:推奨しない
2歳:1時間以内
11〜14時間
3〜4歳1日合計180分、うち中〜高強度が60分以上1時間以内10〜13時間

1歳未満で「うつぶせ30分」、1〜2歳で「合計180分」。この180分に、「強度を問わず」とついているところが、私にはいちばん大事に見えました。

「毎日合計60分」の誤解

3歳以上になると、文部科学省の指針が使えます。よく引用されるのが「幼児は様々な遊びを中心に、毎日、合計60分以上、楽しく体を動かすことが大切です!」という一文。この「60分」、けっこう重く受け取られているんじゃないかと思うのですが、指針の本文にはこう書かれています。

「60分間の運動プログラムをつくることを推奨しているのではありません。」

「『合計』という言葉が付随しているのは、楽しく体を動かす遊びを中心に、散歩や手伝いなども含め、それらの合計が毎日60分以上になることを示しています。」

散歩や手伝いも入る。60分まとめて何かをさせる話ではない。1日のあちこちで動いた時間を足したら60分、ということなんですね。

同じ指針には、「外遊びをする時間が長い幼児ほど体力が高い」という一方で、「4割を超える幼児の外遊び時間が1日60分未満」というデータも載っています。だから外に出るのはやっぱり大事なのですが、その一方でこういう注意書きもあります。

「トレーニングのように特定の動きばかりを経験したり、運動の頻度や強度が高過ぎ、特定の部位にストレスが加わるけがにつながったりしないよう注意が必要です。」

指針がポイントに挙げているのは「多様な動きが経験できるように」「楽しく体を動かす時間を確保する」「発達の特性に応じた遊びを提供する」の3つ。動きの種類も「バランスをとる」「移動する」「用具を操作する」の3つに分けて、まんべんなく、と書かれています。ここでも「特定の動きばかり」は避けるように、と言っている。スポーツ団体の資料とまったく同じ方向です。

教える前に、まず「動く量」

もうひとつ、幼児の運動について、順番の話をしてくれた研究があります。ジョーンズさんたちが2020年に『Journal of Sport and Health Science』に出したもので、3〜6歳を対象にした19の研究をまとめたものです。子どもの身体活動を加速度計(体につける小さなセンサー)で客観的に測っている研究だけを集めているのが特徴です。

見ているのは、「基本的な動き(走る・跳ぶ・投げるなど)の上手さ」と「体を動かしている量」の関係。結果は、r = 0.20(95%信頼区間 0.13〜0.26)。原文の言葉を借りると「有意だが小さい」正の関連でした。よく動く子ほど動きが上手、という傾向はあるけれど、その関係はそれほど強くない、ということです。

ただ、この研究で私が覚えておきたいと思ったのは、数字の大きさより「向き」のほうでした。時間を追って調べた研究をまとめると、幼児期は「身体活動が動きのスキルを駆動する」(”PA drives FMS in early childhood”)とされていたんです。

つまり、この時期は「動きを教えるとよく動くようになる」のではなく、「よく動いていると、動きが育つ」という順番らしい。関連の大きさはr=0.20と小さいので、これを「動けば動くほど運動神経が伸びる」と読むのはやりすぎです。でも少なくとも、教える前に、まず動く量。順番はそっち、というのは、私の中でかなり腑に落ちました。

挿絵2|歩道橋を楽しそうに歩く息子(黒髪短髪)と、少し後ろからついていくママ(茶髪ロング)。AI水彩・文字なし

家の中を走り回っているのは、足りていないどころか足りている

ここで、冒頭に書いた息子の話に戻ります。「ずーっと家の中を走ってるけど、大丈夫なのかな」。

WHOの1〜2歳の目安は、「強度を問わず、1日合計180分」でした。外遊びとも、公園とも書いていません。強度を問わず、1日を通して、合計で。つまり、キッチンのまわりをぐるぐる走っている時間も、この180分にちゃんと入ります。

とはいえ、ぐるぐる走っているだけで180分になるかというと、さすがにそこまでは走っていません。走るのは思い出したように、1回数分。それが日に何度か、という感じです。

ただ、「1日を通して、合計で」なので、足していいのはぐるぐるだけではありません。買い物でカートを押したがって歩いた時間も、支援センターで動き回った時間も、お風呂前に追いかけっこになった数分も、全部この合計に入ります。そうやって1日ぶんを足していくと、180分はそこまで遠い数字ではないな、と思えました。

あんなに動いている子に「運動が足りないんじゃないか」と心配していたのは、私の中で「運動=外で・ちゃんと・何かをする」になっていて、その他の時間を数えていなかったからでした。

もちろん、WHOの根拠の質は「とても低い」と自分たちで書いているくらいなので、「180分やっているから完璧」と言うつもりはありません。文科省の指針にあるように、外遊びの時間が長い子ほど体力が高い、というデータもある。だから外に出るのはやっぱりいい。ただ、家の中で走り回る時間を「運動じゃない」とカウントしないのは、目安の読み方として合っていない、ということです。

「大丈夫なのかな」への私なりの答えは、「1日ぶんを足してみたら、量としてはそんなに心配しなくてよさそう」でした。追いかけさせられる大人のほうは、それはそれでたいへんですけど。

わが家はどうしているか:特別なことは、していません

息子は2024年9月生まれで、いま1歳11か月。もうすぐ2歳です。運動まわりで特別なことは、していません。

習い事は、考えてみたり、まぁいっかって思ったり、の状態が続いています。リトミックは支援センターで体験して楽しかったし(そのときの話はリトミックの記事に書きました)、スイミングも名前は挙がる。でも、今回いろいろ読んで、「急いで決めなくていいんだな」という気持ちのほうが強くなりました。やりたくなったらやる。それでいい、と。

外遊びは、夫がだいぶ担当してくれています。平日の日中は、支援センターか公園に週3日くらい。散歩に出れば、歩道橋を4往復したがるくらい歩くのが好きな子なので、外に出る用事さえ作れば、あとは勝手に動きます。平日は私がついつい外に出たくなくなってしまうので、「お散歩行かなきゃなー」とは思うのですが、、、なかなか動き出せず…これから保育園に通うようになれば、外で遊ぶ時間はもっと増えるだろうな、という期待もあります。

家の中は、キッチンのまわりをぐるぐる。庭の人工芝では、でんぐり返し。夫は「庭を作った甲斐があった」と喜んでいますが、私は首のことがやっぱり少し気になっていて。ただ、これについては今回読んだ資料の中から答えは見つけられませんでした。運動の量の話とは別に、そのうちきちんと調べたいと思っています。

挿絵3|庭の人工芝でごろんと転がって遊ぶ息子(黒髪短髪)と、縁側から見守るママ(茶髪ロング)。AI水彩・文字なし

年齢別に、いま言えることの整理表

ここまでの内容を、年齢ごとに並べてみました。「何をすべきか」のリストというより、「その年齢について、どの資料が、どのくらいの確かさで、何を言っているか」の表だと受け取ってもらえればいいかなと思います。

年齢目安出典根拠の確かさ
0歳床でのやりとりのある遊び/うつぶせ合計30分以上/1時間超の座らせっぱなしを避けるWHO 2019強い推奨だが、エビデンスの質はとても低い
1〜2歳強度を問わず1日合計180分(家の中の走り回りも含む)WHO 2019同上
3〜6歳散歩や手伝いも含めて毎日合計60分以上/多様な動き/特定の動きばかりにしない文部科学省 幼児期運動指針 2012国の指針(日本で唯一の幼児向け公的指針)
3〜9歳遊びを含めた多様な運動で様々な動きを身につける/専門的なトレーニングや競技会準備は行わない(7〜12歳)日本スポーツ協会 2021国内スポーツ団体の公式ガイド
〜12歳「年8か月超+1種目のみ+12歳未満」の3条件がそろう早期専門化は、ほとんどのスポーツで利益の根拠なし(体操・フィギュア・新体操・飛込は例外の可能性)AOSSM 2016/AAP 2016学会の合意声明
16〜18歳得意な種目、熱中できる種目を絞る日本スポーツ協会 2021国内スポーツ団体の公式ガイド

こうして並べると、「今やらないと手遅れ」を支持している行が、ひとつもないのが見えてきます。逆に、「多様な動き」「遊び」「絞るのは16歳以降」は、日本の資料も海外の資料も、そろって同じことを言っています。

よくある質問

Q1. 「運動神経は12歳までに決まる」は嘘なんですか?

「嘘」とまでは言えないと思います。ただ、根拠とされている図(スキャモンの発育曲線)は、著者がフリーハンドで描いた仮説のモデルで、およそ80年のあいだ科学的な検証がされていない、と査読つきの総説で指摘されています。しかもあの曲線が示しているのは、神経系が大人の大きさの何%まで育ったかであって、運動を覚える能力の話ではありません。なので「間違いだと証明された」のではなく、「そもそも確かめられていないうえに、読み替えられている」、が近いと思います。

Q2. 習い事は何歳から始めるのがいいですか?

「この年齢までに始めないと遅い」という線は、今回読んだ資料の中には見当たりませんでした。日本スポーツ協会は3〜9歳を「遊びを含めた多様な運動を楽しみながら様々な動きを身につける」時期としていて、種目を絞るのは16〜18歳。アメリカ小児科学会も、専門化は15〜16歳ごろまで待つほうがいいとしています。週1回の教室くらいの関わり方なら、早期専門化の3条件にも当てはまりません。始める時期は、子どもが興味を持ったときか、親が連れて行けるとき、で決めていいのかなと思っています。

Q3. うちの子は運動が苦手そうです。今のうちに何かしたほうがいいですか?

3〜6歳を対象にした研究のまとめでは、幼児期は「身体活動が動きのスキルを駆動する」、つまりよく動いていると動きが育つ、という順番が示されています(関連の大きさはr=0.20と小さいので、そこは割り引いて)。教えるより先に、動ける時間と場所を減らさないこと、が先のようです。それと、日本スポーツ協会の資料には「早熟な子どものその後の伸びしろは小さくなる傾向にある」ともあって、小さいうちに目立つかどうかと、あとで伸びるかどうかは、同じではないみたいです。今の「苦手そう」で先を決めてしまう根拠は、少なくとも今回の資料にはありませんでした。

Q4. 早生まれは運動で不利、と聞きました

同じ学年の中で生まれ月による差が出ることは「相対年齢効果」と呼ばれていて、日本スポーツ協会や日本陸上競技連盟の資料でも扱われています。ただ、その文脈は「大会やカテゴリー分けなど、制度の側が工夫すべき」という話です。親が何かを埋め合わせなければいけない、という話ではありません。ここは「早生まれは不利」で終わらせずに、「制度側の課題として認識されている」まで読んでおくと、少し気持ちが楽になると思います。

Q5. 週1回スイミングに通わせています。やめたほうがいいでしょうか?

やめる理由は、今回の資料の中にはありません。研究が気にしているのは「年8か月を超えて、1種目だけに絞って、12歳未満で」という早期専門化の状態で、週1回のスイミングは①も②も当てはまらないからです。AOSSMは「早いうちにいろいろなスポーツをすることが、将来の競技での成功をさまたげることはない」とも書いています。楽しく通えているなら、それで十分だと思います。

Q6. 0歳のうちにできることはありますか?

日本には0〜2歳向けの公的な運動指針がないので、WHOの目安を見るしかないのですが、そこに書かれているのは「1日に何度も、いろいろな方法で体を動かす。特に床の上でのやりとりのある遊び」「うつぶせ(tummy time)を起きている間に合計30分以上」「ベビーカーやハイチェアなどに1時間を超えて座らせっぱなしにしない」「スクリーンタイムは推奨しない」です。エビデンスの質は「とても低い」と但し書きがついているので、目安として。特別な道具や教室の話は出てきません。

Q7. 外に出られない日が続くと心配です。家の中だけでも大丈夫?

WHOの1〜2歳の目安は「強度を問わず、1日を通して、合計180分」で、場所の指定はありません。家の中で走り回る時間も、その180分に入ります。走っている時間だけで180分に届かなくても、着替えや家事についてまわる時間、買い物で歩いた時間も足していける、という読み方です。ただ、文部科学省の指針には「外遊びをする時間が長い幼児ほど体力が高い」というデータもあるので、外に出られる日は出たほうがいいのも本当です。出られない日を「運動ゼロの日」と数えなくていい、というのが今回の資料から言える範囲だと思います。

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lino(著者)と息子が公園で手を繋いで歩く後ろ姿

lino

2024年9月生まれの男の子を育てているlinoです。息子は今1歳11か月、もうすぐ2歳。家の中をずーっと走り回っていて、最近は庭の人工芝ででんぐり返しがお気に入りです。運動系の習い事は、考えてみたり、まぁいっかって思ったり、の途中。外遊びは夫がだいぶ担当してくれていて、平日は支援センターや公園に週3日くらい。「ゴールデンエイジ」という言葉は聞いたことがある程度で、焦ってはいなかったのですが、根拠がどこにあるのか知らなかったので調べてみました。教室ともスポーツ団体とも関係がないので、読んだままを書いています。

まとめ:急がなくていい根拠のほうが、たくさん見つかりました

  • 「12歳までに決まる」の根拠とされるスキャモンの発育曲線は、著者がフリーハンドで描いた仮説のモデルで、およそ80年のあいだ科学的な検証がされていない(藤井 2013)。「嘘」ではなく「確かめられていない」
  • しかもあの曲線が示すのは神経系が大人の大きさの何%まで育ったか。「運動を覚える能力」のグラフではない
  • 「黄金期」という言葉は科学文献にはほとんど出てこない。10歳・18歳・39歳で比べた研究では、上達量に差がなかった(ただし27人の小規模研究)。2024年の追試では、子どもは覚える速さより「一晩あとの定着」に強みが出ていて、単純な話ではない
  • 「早く始めるほど有利」は支持されていない。日本スポーツ協会は種目を絞るのを16〜18歳、アメリカ小児科学会は15〜16歳ごろまで待つほうがいいとしている。世界トップ選手は、むしろ主種目を始めたのが遅かった
  • ただし否定されているのは「年8か月超+1種目のみ+12歳未満」の早期専門化だけ。週1回の習い事は対象外。体操・フィギュア・新体操・飛込は例外の可能性あり
  • 日本には0〜2歳向けの公的運動指針がない。WHOの目安は1〜2歳で「強度を問わず合計180分」(強い推奨だがエビデンスの質は低い)。家の中を走り回る時間も、ちゃんと入る
  • 3〜6歳の「毎日合計60分」は、散歩や手伝いも含めた合計。60分の運動プログラムを作る話ではない
  • 幼児期は「よく動いていると、動きが育つ」順番のようで、教える前に、まず動く量(関連は小さい)

調べる前は、「急がなくていい」と言い切る根拠はそんなにないだろうな、と思っていました。ゴールデンエイジの図はどこにでも載っているし、あれだけ広まっている話なら、それなりの裏づけがあるんだろう、と。でも実際に元の資料まで戻ってみたら、急ぐ根拠のほうがほとんど見つからなくて、急がなくていい根拠のほうが、日本の資料にも海外の資料にも、そろって書いてあったんです。

だから、習い事をさせている方は、そのまま楽しく続けてください。させていない方も、急がなくて大丈夫です。うちみたいに、家の中をぐるぐる走って、週に何日か外に出て、というのも、目安の上ではちゃんと足りている形です。どちらを選んでも、この記事で紹介した資料と喧嘩しません。

最後に、文部科学省の幼児期運動指針の一文を置いておきます。今回読んだ資料の中で、いちばん「そうだよね」と思った言葉でした。

「幼児期に早急な結果を求めるのではなく、小学校以降の運動や生涯にわたってスポーツを楽しむための基盤を育成することを目指すことが重要です。」

文部科学省「幼児期運動指針」(2012)

【参考資料】
・藤井勝紀(2013)「発育発達とScammonの発育曲線」『スポーツ健康科学研究』35, 1–16 https://tspe.sakura.ne.jp/publish/doc/35_01_KatsunoriFUJII.pdf
・Solum, M., Lorås, H. & Pedersen, A. V.(2020)Frontiers in Psychology, 11, 538 https://www.frontiersin.org/journals/psychology/articles/10.3389/fpsyg.2020.00538/full
・Beck, M. M. et al.(2024)Developmental Science, DOI: 10.1111/desc.13536(報道:University of Copenhagen / ScienceDaily 2024-11-12 https://www.sciencedaily.com/releases/2024/11/241112123436.htm)
・Brenner, J. S., American Academy of Pediatrics(2016)Pediatrics, 138(3), e20162148 https://www.chkd.org/media/155p4r1t/sm_aap_sports-specialization-and-intensive-training-in-young-athletes_brenner_chkd.pdf
・LaPrade, R. F. et al.(2016)AOSSM Consensus Statement, Orthopaedic Journal of Sports Medicine, 4(4) https://journals.sagepub.com/doi/full/10.1177/2325967116644241
・Güllich, A., Macnamara, B. N. & Hambrick, D. Z.(2022)”What Makes a Champion? Early Multidisciplinary Practice, Not Early Specialization”, Perspectives on Psychological Science https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/1745691620974772
・日本スポーツ協会「発育期のスポーツ活動ガイド」(2021)/「アクティブ・チャイルド・プログラム」第5章/「日本版アスリート育成モデル」 https://www.japan-sports.or.jp/Portals/0/data/supoken/doc/jspo-acp/jspo-acp_chapter5.pdf
・日本陸上競技連盟「競技者育成指針」
・WHO(2019)”Guidelines on Physical Activity, Sedentary Behaviour and Sleep for Children under 5 Years of Age” https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK541173/
・文部科学省「幼児期運動指針」(2012) https://www.mext.go.jp/a_menu/sports/undousisin/1319771.htm
・Jones, D., Innerd, A., Giles, E. L. & Azevedo, L. B.(2020)Journal of Sport and Health Science, 9, 542–552 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7749255/

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この記事を書いた人

2024年9月生まれの男の子を育てるママ。育児の「これって大丈夫?」をエビデンスと実体験で深堀りしています。正直に使ってよかったものだけ紹介中。Instagram / Threads:@lino_toylog

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